朝日新聞朝刊「被曝 見えぬ実態」(補足説明)

 

  2012年5月24日の朝日新聞朝刊に掲載された「被曝 見えぬ実態 『福島原発周辺10~50ミリシーベルト』WHO推計」の記事のなかで、IARCが携帯電話の電磁波を「発がん性の可能性がある」と判定したのは、世界保健機関(WHO)の「予防原則」を適用したためと誤解を生じさせる記述がありましたので、センターとし下記のように補足します。
○記載内容(関連箇所のみ)
 人々の健康管理を担うWHOは、「予防原則」の立場をとっている。 (中略) たとえば昨年6月には、WHOの国際がん研究機関(IARC)が、携帯電話の電磁波を「発がん性の可能性がある」との報告書をまとめた。(中略) 「科学的な根拠が弱いレベル」に分類しながら、「発がん性の可能性あり」との見解を示した。発がん性の可能性がまったくないとは言えない点を重視したためだ。
≪補足≫
(1) WHOの予防原則について
 記事では、WHOが電磁波(電磁界)の健康影響に対して「予防原則」を適用しているような記述となっていますが、そのような事実はありません。WHOは電磁波の健康影響に対して、2000年3月の背景説明資料「コーショナリ政策(Cautionary Policies)」の中で、「電磁界に対するコーショナリ政策は、十分な注意と慎重さをもって初めて採用されます。(中略)商用周波または無線周波の電磁界いずれの場合にも満たされないように思われます。」と述べています。また、欧州委員会も2002年の「電磁界(0Hz to 300GHz)への公衆ばく露制限に関する欧州理事会勧告の施行報告書」の中で、「人の健康に対して起きるかもしれない影響が潜在的に危険であるかもしれないという明快な科学的示唆がないので、EMFの場合には当てはまらない。」と述べています。
(2) IARCの判定について
 IARCの判定は、「予防原則」というリスク管理の概念が導入される以前から、化学物質を含むさまざまな環境要因への発がん性に関する研究に基づいて、その科学的証拠の確かさについての定性的な評価を行っています。したがって「予防原則」を適用した判定は行っていません。IARCの評価は、ハザード(障害性の有無)評価と位置づけられます。健康リスク評価に不可欠ながん以外のハザード評価や量-反応関係(使用量によって影響が増えているか)などを含め、WHO本部が総合的な健康リスク評価を行っています。今回IARCは携帯電話の電磁波を2B(発がん性があるかもしれない)とハザード評価しましたが、来年以降にWHO本部が電磁波の総合的な健康リスク評価をおこなう予定です。

 なお、当センターは、朝日新聞の担当記者に対して、記事に誤解を招く可能性がある旨を指摘させていただきました。

以 上