1-1電磁波(電磁界)問題とは?
ここでは電力設備などから発生する50・60Hz(ヘルツ)の電磁波(電磁界)に関する歴史的な経緯をお答えします。
1970年代から米国やスウェーデン等の研究者が送電線の周辺に住んでいる人たちの健康について調査したところ、電磁波(電磁界)の大きさと小児白血病に関連があるという報告がなされ、日常的な電気の使用により発生する電磁界が健康に影響を与えるのではないかということが問題になりました。
1973年76万5千V(ボルト)超高圧送電線建設プロジェクト(米国)訴訟
1973年、米国ニューヨーク州の76万5千V超高圧送電線の建設プロジェクトに反対する住民から訴訟が起き社会問題となりましたが、州の公益事業委員会の調停によって和解が成立しました。その和解条件は、
- 電界の制限値を既設送電線下レベルの1.6 kV/m(キロボルト/メートル)とする
- これ以降は、安全が確認されるまで76万5千V送電線の建設は認めない
- 安全性を確認するために電磁界の影響を研究調査する
というものでした。
この判決を受け、ニューヨーク州送電線プロジェクトが開始され、電磁界の影響調査・研究が計画されました。このプロジェクトのもと、1970年代後半~1980年代にかけて積極的な研究が行われ、最終報告書が1987年に公表されました。報告書の結論は、「生活・職場環境で見られる商用周波電界による生体・健康に悪影響を及ぼすような科学的根拠は見られなかった」とするものでした。
この訴訟によって、電磁界問題(電界問題)が一般的に認知されるようになりました。
小児白血病の疫学研究
- 1979年 ワートハイマー、リーパー(米国)の疫学研究
1979年、米国の疫学研究者ワートハイマーとリーパーは、低周波磁界とヒトの健康に対する疫学調査結果を公表しました。
この研究は、コロラド州デンバーにおいて1950年~1973年に小児がんで死亡した344人について症例対照研究を行ったもので、その結果は、送電線・配電線の近くに住む子供は小児がん死亡率が高いことを示唆するものでした。 - 1987年 サビッツ(米国)の疫学研究
1987年、米国ノースカロライナ大学公衆衛生学部のサビッツらは、配電線の近くに住んでいた14歳以下の小児がん(特に白血病)の発症率が、配電線の近くに住んでいない子供と比較して1.5~2倍高いという報告を公表しました。
当時、疫学者として著名なサビッツの疫学研究によって、発症率が増加するとの結論が出されたため注目を集めました。 - 1992年 ファイヒティング・アールボム(スウェーデン)の疫学研究
1992年、スウェーデン国立カロリンスカ研究所のファイヒティングとアールボムが、1960年~1985年までのスウェーデン国内のデータを解析し、送電線から300m以内に住む子供の小児白血病を発症する相対危険比は、磁界ばく露レベル(計算値)が0.2µT(マイクロテスラ)以上で2.7倍になるとの結果を公表しました。
こうした疫学研究報告の公表により、電磁界の健康影響問題が各種メディアで取り上げられるようになり、電磁界は社会問題として一般の人々の間に認知されるようになっていきました。
一方、このような状況から、各国政府や国際機関は、この問題に対処する必要に迫られるようになりました。
国際機関等における主な電磁界研究の取り組み
- 1987年
世界保健機関(WHO)は「環境保健クライテリア№69(磁界)」で、誘導電流密度1mA/m2(ミリアンペア/平方メートル)(※磁界レベルでは500µTに相当)以下では確立された影響はないと公表しました。 - 1993年
米国政府は米国エネルギー政策法(1992年10月法案可決)に基づき、1993年から6年間、約6500万ドルの費用を投じ、電磁界に関する調査研究と広報活動プロジェクト(EMF-RAPID計画)を開始しました。 - 1996年
WHOは「国際電磁界プロジェクト」を発足させました。 - 1999年
EMF-RAPID計画の最終報告が公表されました。 - 2001年
国際がん研究機関(IARC)が、静電界、静磁界、1000Hzまでの超低周波電磁界に関する発がん性の評価結果を公表しました。 - 2007年
WHOは「環境保健クライテリア№238(超低周波電磁界)」で、「疫学調査で示唆された小児白血病と超低周波磁界との関連性に関する証拠は、因果関係があると考えるほどには証拠は強くないが、関心を残すには十分強い。その他の健康への悪影響に関する科学的証拠は、小児白血病のものよりさらに弱い。」また、「ファクトシート№322」では、「小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません。」と公表しました。