10-10疫学研究とはなんですか。
疫学研究とは、人間の集団における病気の発生状況(罹患率や死亡率)と、その原因である可能性がある(仮説上の)要因との関係を、統計学的に分析する研究手法です。
疫学研究には、横断研究、症例対照研究、コホート研究があります。
横断研究とは、ある集団の、ある一時点での病気の有無と、その原因である(またはその病気を改善する)可能性がある要因を受けているかどうかを同時に調査し、その関連を明らかにする方法です。「生態学的研究」ともいいます。
横断研究は実施期間が短く、少ない費用で実施できますが、病気と、その原因である可能性がある要因との時間的な関係を観察していないため、因果関係を推定することはできません。
症例対照研究とは、ある病気にかかっているグループ(症例)と、病気にかかっていないグループ(対照)を設定し、両グループにおける過去の生活習慣などの状況を比較することで、要因の有無の影響(オッズ比といいます)を評価する方法です。
症例対照研究は、比較的短い期間で実施でき、対象の集団の規模も比較的小さいことから、コホート研究よりは少ない費用で実施できますが、参加者の生活習慣などの情報を過去にさかのぼって収集するため、参加者の記憶による偏りが生じやすく、結果の信頼性はあまり高くありません。
これまでに実施されている、低周波磁界と小児白血病との関連を調べた疫学研究のほとんどは、症例対照研究です。
コホート研究とは、病気にかかっていない集団(コホート)を対象に、その病気の原因である可能性がある要因を受けている(ばく露されている)グループと受けていない(ばく露されていない)グループを最初に特定し、これを一定期間追跡調査して病気の発生状況を比較することで、要因の有無の影響(相対リスクといいます)を評価する方法です。
コホート研究は、疫学研究の中では精度の高い研究です。ただし、罹患率の低い(例えば10万人に数人程度の)病気を調査するには、非常に多くの対象者が必要になり、費用面など実際に実施するには多くの課題があります。
疫学研究では、ある病気と、その原因である可能性がある要因との因果関係を推定することはできても、これを証明することはできません。
因果関係とは、ある事象が原因となり、別の事象がその結果として生じるということをいいます。
疫学研究では一般的に、統計学的手法によって関連性を示すことはできますが、因果関係を証明することは非常に困難です。というのは、一つの結果を生じる原因は一つとは限らないためです。
関連性とは、ある事象と別の事象との間に何らかの関係がある場合をいいます。
例えば、「かき氷の売り上げ」が多い日には「水難事故の件数」も多いという関連性がありますが、これは因果関係ではありません。というのは、「かき氷の売り上げ」と「水難事故の件数」の両方に共通する別の事象として「気温の高さ」があるためです。つまり、「気温が高い日にはかき氷の売り上げが増える」、「気温が高い日には水辺で遊ぶ人が増えて水難事故の件数も増える」という2つの関連性が混在しています。