成人のがんに対する超低周波電磁界による影響について、世界保健機関(WHO)環境保健クライテリアNo.2381)の第1章で、以下のように要約されています。

疫学研究

国際がん研究機関(IARC)は2002年にIARCモノグラフ2)において、超低周波磁界を「人に対する発がん性があるかもしれない」に分類すると公表しました。前章で説明したように、これは小児白血病に関する疫学研究の結果だけを根拠に決定されたもので、小児のその他のがんおよび成人のがんに関する証拠は依然として不十分です。

IARC モノグラフ以降、超低周波磁界ばく露と関連した成人女性の乳がんリスクに関する報告がいくつか公表されています。これらの研究は従来のものよりも大規模で、バイアスに影響されにくくなりましたが、全体として影響には否定的な結果を示しています。これにより、超低周波磁界ばく露と女性の乳がんリスクとの関連性を示す証拠の意味合いは大幅に弱くなり、関連性があるとは考えられていません。

成人の脳腫瘍および白血病については、IARC モノグラフ以降に公表された新たな研究を加えても、超低周波磁界ばく露とこれらの疾患リスクとの関連性に関する全体的な証拠は依然として不十分であるという結論です。

その他の疾病およびその他のすべてのがんについては、証拠は依然として不十分です。

動物研究

ラットを用いた3件の独立した大規模研究では、自然発生乳がんの発症率に対する超低周波磁界の影響の証拠は示されていません。ほとんどの研究で、超低周波磁界はげっ歯類モデルにおける白血病またはリンパ腫に影響しないことが報告されています。げっ歯類のいくつかの大規模長期ばく露研究では、造血系、乳腺、脳および皮膚の腫瘍を含め、どの種類のがんにも一貫した増加は示されていません。

ラットの化学物質誘発乳がんに対する超低周波磁界の影響については、かなりの数の研究が行われましたが、実験プロトコルの全部または一部に違い(たとえば特殊な亜種の使用)があるため、結果は一貫していません。化学物質誘発または放射線誘発白血病/リンパ腫モデルに対する影響についてはほとんどの研究結果は否定的です。肝臓の前がん病変、皮膚および脳の化学物質誘発腫瘍の研究では、主に否定的な結果が報告されています。一方、ある1件の研究が、超低周波磁界へのばく露を組み合わせることによって紫外線誘発の皮膚がん発生が加速されることを報告しています。

2つの研究グループが、in vivoでの超低周波磁界ばく露後の脳組織におけるDNA鎖切断のレベル上昇を報告しています。しかしながら、他の研究グループが各種のげっ歯類の遺伝毒性モデルで実験した結果、遺伝毒性作用の証拠は何らみられませんでした。遺伝毒性以外のがん関連の作用について調べた研究結果は決定的なものではありません。

全体として、超低周波磁界へのばく露のみによって腫瘍が誘発されることを示す証拠はありません。超低周波磁界ばく露を発がん性物質と組み合わせた場合に腫瘍の発生を増加させるという証拠は不十分です。

細胞研究(In vitro研究)

細胞に対する超低周波ばく露の影響に関する研究は全般として、50 ミリテスラ以下の磁界で遺伝毒性を誘発しないことを示しています。注目すべき例外として、35 マイクロテスラほどの低い磁界強度におけるDNA 損傷に関する最近の研究がありますが、これらの研究はまだ評価の途中であり、完全な解釈ができていません。また、超低周波磁界がDNA 損傷因子と相互作用するかもしれないという証拠も増えています。

超低周波磁界が、細胞周期調節に関連する遺伝子を活性化することを示す明確な証拠はありません。ただし、全遺伝子の反応を解析する体系的研究はまだ実施されていません。

その他の細胞研究、たとえば細胞増殖、アポトーシス、カルシウムシグナル、悪性転換に関する多くの研究の結果には一貫性がなく、また決定的なものではありません。

以上のように、WHOは成人のがんと超低周波磁界ばく露との関連性を弱いとみなしています。

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