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1985年頃から旧郵政省(現総務省)で高周波電磁界(電波)に対する防護指針の検討が開始され、1990年、電気通信技術審議会は、10キロヘルツから300ギガヘルツまでの電波を対象とした「電波防護指針」1)を答申しました。電波防護指針は「基礎指針」と「管理指針」から構成されています。
「基礎指針」は、人体への電波の刺激作用と熱作用を考慮した安全性評価の基準となる指針です。たとえば電波塔などからの電波は体全体に届きますので、全身平均SAR(後述)で評価を行いますが、約4ワット/キログラム以上になるとその熱作用で深部体温が1度上昇し、動物での行動に影響が出ます。この値に10倍の安全率を持たせて、全身平均SARの任意の6分間平均が、0.4ワット/キログラム以下であることが定められています。しかし、基礎指針は直接測定ができない人体内部の現象を指標にしていますが、さまざまな電波環境でその安全性を迅速に評価できることが求められます。これに対応するために「管理指針」が設けられています。
「管理指針」は、基礎指針を満たすための実測できる物理量(電界強度、磁界強度、電力密度、電流および比吸収率)で表現され、具体的には「電磁界強度指針」や「局所吸収指針」で定められています。また、管理指針は「管理環境」と「一般環境」に分けて規定しています。管理環境(労働環境)は電波を職業的に取り扱う人を対象とし、一般環境はそれ以外の一般の人を対象としています。管理環境の指針値は全身平均SARが0.4ワット/キログラム以下です。一般の生活環境では、さまざまな条件の人がいることを考慮して、さらに5倍の安全率を加えた0.08ワット/キログラム以下と定められています。深部体温が1℃上昇する電波環境を基準にすると、一般環境の管理指針値は50倍の安全率が考慮されています。よって、この値を超えたからといって、それだけで人体に影響をおよぼすものではありません。
携帯電話基地局や電波塔からの電波は、電磁界強度指針によって規制されています。なお、指針値は周波数によって異なっています。下表に一般環境の電磁界強度指針値を示します。電磁界強度指針値は、全身が電波に均一にばく露され、電波の吸収が最大となる条件を仮定して換算した電波の強度(電界強度、磁界強度および電力束密度)を基準値として定められています。よって、この指針値を超えなければ「基礎指針」を満足することになります。
周波数 f |
電界強度 E[V/m] |
磁界強度 H[A/m] |
電力密度 S[mW/cm2] |
---|---|---|---|
10kHz ~30kHz | 275 | 72.8 | |
30kHz ~3MHz | 275 | 2.18/f | |
3MHz ~30MHz | 824/f | 2.18/f | |
30MHz ~300MHz | 27.5 | 0.0728 | 0.2 |
300MHz ~1.5GHz | 1.585×f(1/2) | f(1/2)/237.8 | f/1500 |
1.5GHz ~300GHz | 61.4 | 0.163 | 1 |
参考のために、デジタル携帯電話基地局のアンテナから発射される電波の地上での電力密度の例を下図に示します。
一方、携帯電話端末のように頭のそばで使う機器からの電波については、頭部の一部に電波のエネルギーが吸収されますので、「局所吸収指針」にもとづいて規制され、その局所SARは任意の組織10グラム当たり2ワット/キログラム(手足では4ワット/キログラム)とされています。3)
これらの指針値は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が2020年に示した国際的なガイドライン4)と同じ値となっています。
比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)とは、人体が電波にばく露された場合の電波のエネルギー吸収を評価する単位です。それは、人体組織1キログラム(全身にばく露される場合)あるいは10グラム(局所にばく露される場合)当たり6分間に吸収されるエネルギー量を表しています。