欧米では、低レベル磁界の長期間ばく露による健康影響の可能性への対応として、「Precautionary approach(プレコーション的アプローチ:念のための措置)」の考え方を取り入れて、低いレベルのばく露制限値を設けている国や地域があります。[▶Ⅳ(2)]また、科学的に正しいといえる磁界低減対策ではないとしても、簡単で容易になしえる低コストの対策「Prudent Avoidance(賢明なる回避)」[▶Ⅳ(4)]を行っている国や州があります。
これらの例として、米国カリフォルニア州での例をご紹介します。

カリフォルニア州アーバイン市における磁界規制の事例

カリフォルニア州のロサンゼルス市から南東約50kmの位置に、大学や研究機関、IT企業などが多く置かれた約20万人の都市「アーバイン市」があります。
このアーバイン市で、1980年代後半、第38区と呼ばれる地域の住宅開発計画が土地開発事業者から市に持ち込まれた際、地域の脇を通過するサザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)の22万ボルトと6万6000ボルト送電線から発生する電磁界が、住民の健康にどのような影響を与えるかを評価することになりました。電磁界の健康影響については、審査の過程で影響ありとする意見と影響なしとする意見が出され結論はでませんでした。しかし市議会は念のためという考えを採用し、住宅や幼稚園を4ミリガウス(0.4マイクロテスラ)ラインの内側に建設することを禁止する決定をしました。
なお、アーバイン市で4ミリガウス規制を受けている家屋は、この38区で送電線に隣接した約20軒のみで、アーバイン市約8万6000軒の中ではわずかな数です。

送電線の建設規制
22万ボルトと6万6000ボルト送電線(左)と建設規制を受けた住居(右)

カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)の電力設備磁界低減規制の事例

「Prudent Avoidance (賢明なる回避)」とは、1989年米国カーネギー・メロン大学モーガン博士らが提唱した、電磁界リスク管理のための政策のひとつの考え方で、送電線ルートの再検討、電力系統や家電製品の設計変更などにより、人々を電磁界から遠ざけようとする方法です。prudent とは、低コストで済むような「賢い」回避活動を意味しています。
1993年、カリフォルニア州の電力や鉄道事業など、公益事業者を監督する州公益事業委員会(CPUC)は、この「賢明なる回避」の考え方にもとづいた電磁界政策を定めました。
この決定は、「これまでの科学研究では、電磁界ばく露が健康への悪影響の原因となることは実証されていない」「数値基準を設定してばく露量を制限するのは不適当なこと」であるとしたうえで、電磁界に対する人々の懸念に対処するため、電気事業者に対して、ノーコストおよび低コストで実施可能な電磁界の低減政策を定めたものです。
具体的には、電気事業者は、送電線・変電所の新設および拡充計画の際、磁界を大幅に低減できる場合、計画予算の4%をその低減対策に用いることを認めるというものです。
この4%は関係者の協議によって定められたもので、電磁界の健康影響に関して何らかの科学的根拠にもとづいたものではありません。
CPUCは2006年に、ノーコストおよび低コスト政策を継続することを決めています。
低コストの低減策については「電力設備から発生する磁界の低減方法」[▶Ⅰ(6)]をご参照ください。

カリフォルニア州教育局(CDE)の学校用地選定における送電線との離隔規制の事例

カリフォルニア州教育局は、1989年に新規学校用地と既設送電線との離隔距離を定めるガイドラインを制定し、1993年にはそのガイドラインを法制化しました。
たとえば、5万ボルト~13万3000ボルトの送電線に対しては、学校用地の境界線は少なくても送電線用地端から100フィート(約30メートル)離さなければならないと定めています。
ただし、1990年代後半に入り、この規制にもとづいた学校用地の選定は現実的に困難な状況となり、2006年には「離隔規制の例外ガイダンス」が制定され、個々の条件に応じた緩和措置がとられています。

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