国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)とは、世界保健機関(WHO)の専門機関であり、化学物質や喫煙などによって引き起こされるがんについて調査・研究とがん対策を推進する機関です。IARCの発がんハザード評価は、対象となる作用因子、たとえば、物理的因子、化学的因子、特殊な環境因子等による定性的な評価(発がん性の性質の程度)をグループ別に分類するものであり、定量的なリスク評価(発がん性の強さ)をするものではありません。
IARCの発がんハザード評価ワーキンググループは、発がん性評価専門家で構成され、必要に応じて4つの専門グループに分かれて評価作業を行います。

国際がん研究機関の図

IARCの発がんハザードの評価方法

IARCの発がんハザードの評価は、以下の過程によって行われます。

  • IARCにより発がんに関わる専門家から成るワーキンググループメンバーの選定(世界各国から20~30名程度)
  • ワーキンググループによる、論文の精査とモノグラフの作成
  • ヒトのがん研究グループと動物のがん研究グループは以下の4分類から1つを決定
    ①十分な証拠 ②限定的な証拠 ③不十分な証拠 ④発がん性のない証拠
  • メカニズムの証拠グループは以下の3分類から1つを決定
    ①強い証拠  ②限定的な証拠 ③不十分な証拠
  • 細胞実験による発がん性評価やメカニズムについての論文精査を加えて、ワーキンググループメンバーの投票により、以下の最終分類から評価
  • グループ1 :発がん性がある
  • グループ2A :おそらく発がん性がある(probably)
  • グループ2B :発がん性があるかもしれない(possibly)
  • グループ3 :発がん性を分類できない

IARCモノグラフ No.801)による

IARCは、2002年にモノグラフ№80を公表し、静電磁界および3,000ヘルツまでの超低周波電磁界を次のように評価しました。

  • ヒトでの研究……0.4マイクロテスラ以上の超低周波磁界と小児白血病の2倍のリスクが統計的にほぼ一貫した関連性があるが、手法上の問題点を残している。
  • 動物での研究……超低周波磁界へのばく露が発がん・共発がん効果を示す一貫した証拠はない。小児白血病と超低周波磁界へのばく露の増加で観察される関連性を科学的に説明できない。

つまり、

  • ヒトでの研究の証拠=限定的
  • 動物での実験の証拠=不十分

から、超低周波磁界は『2B』と評価されました。また、静磁界、静電界、超低周波電界については『3』と評価されました。

 動物での研究の証拠
十分限定的不十分
ヒトでの研究の証拠十分 1 1 1
限定的 2A 2B 2B
不十分 2B 3 3
※ ヒトでの研究の「限定的」な証拠とは?
ばく露とがんの間に正の相関が認められ、因果関係の説明は信頼できるものと認められるが、
偶然、バイアス(偏り)および交絡因子を納得できる信頼性をもって除外できない場合

IARCによる発がん性の分類

IARCが公表している発がん性の分類の代表的なものを以下に示します。

発がん性の分類及び分類基準 既存分類結果(1035例)
グループ1:発がん性がある
 ヒトへの発がん性を示す十分な証拠がある場合や限定的でも動物への発がん性を示す十分な証拠と発がんメカニズムに強い証拠がある場合
カドミウム、アスベスト、ダイオキシン(2,3,7,8TCDD)、たばこ(能動、受動)、アルコール飲料、エックス線、ガンマ線、紫外線、ディーゼルエンジン排ガス、PCB、加工肉
【他を含む122 例】
グループ2A:おそらく発がん性がある
 ヒトへの発がん性を示す証拠は限定的であるが、動物への発がん性を示す十分な証拠がある場合やヒトで不十分でも発がんメカニズムの証拠が強い場合
鉛化合物(無機)、クレオソート、アクリルアミド、夜間勤務、理容・美容労働、赤肉
【他を含む93 例】
グループ2B:発がん性があるかもしれない
 ヒトへの発がん性を示す証拠が限定的であり、動物実験での発がん性に対して不十分な証拠や限定的な証拠がある場合や、ヒトで不十分でも動物への発がん性を示す十分な証拠がある場合
クロロフォルム、鉛、漬物、ワラビ、ガソリン、ガソリンエンジン排ガス、超低周波磁界、無線周波電磁界
【他を含む319 例】
グループ3:発がん性を分類できない
 ヒトへの発がん性を示す証拠が不十分であり、上の条件に該当しない場合
コーヒー、カフェイン、原油、水銀(無機)、静磁界、静電界、超低周波電界
【他を含む501 例】

※代表的な分類基準を示しています。
 表中の分類結果は2023年2月現在のものです。

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