MRI(磁気共鳴画像法)で人体断面の画像が撮影される原理

MRI(Magnetic Resonance Image)で画像が出来上がる原理は、名称の通り「磁気(磁界)」との「共鳴現象」によります。画像作成に利用するのは水素原子の原子核(プロトン)の共振現象です。プロトンは水分子の一部ですから、身体中にびっしり分布しています。プロトンは原子レベルのきわめて小さいものですが、磁石の性質があります。通常はその向きがばらばらのため、全体として磁石の性質は表に現れませんが、強い磁界の中に置かれると、一定の向きに方向が揃い駒のように回る運動をします。そこへ、その回転数と同じ周波数の高周波磁界をかけると共鳴現象が起きます。高周波磁界の照射を止めると共鳴現象は徐々に収まりますが、臓器、血液、血管など存在する場所で、この元に戻る時間などが異なります。その違いが磁気共鳴現象シグナルに現れますので、それを利用して臓器、血液、血管などの画像を描出するのです。

このため、MRIには3種類の磁界、すなわち強い静磁界、高周波磁界、傾斜磁界(スキャナ内側の位置により強さが違う磁界)が必要です。強い静磁界と高周波磁界は共鳴現象を起こすため、傾斜磁界は共鳴現象シグナルを発したプロトンの位置を知るために必要です。それぞれの磁界発生装置は図のように装置内に組み込まれており、下記のような特徴があります。

磁界発生装置の構成
  • 強い静磁界(通常1.5~3テスラ)   スキャナ内部全域に常に存在します。
  • 高周波磁界(数10~数100MHz)   撮影中のみ発生します。
  • 傾斜磁界(約1kHz でオン/オフ切替)   撮影中のみ、断続的に発生します。
[MRI 検査室の磁気シールド設計]
静磁界は検査室の外へ漏れるほど強いため、検査室の周囲には堅固な磁気シールドが施されています。 それでも検査室の近傍は立入制限されています。

MRIと他の医用画像装置との違い

  MRI装置 X線CT装置 超音波診断装置
与える
物理エネルギー
静磁界、傾斜磁界
高周波磁界
X線

超音波
(1.5~15.0MHz)

えられる
人体組織の情報
水分子(プロトン)の
化学的状態と密度
X線吸収係数の差 音響インピーダンス
(組織の硬さや密度)の差
撮影時間 数~10数分 数秒以下 リアルタイム
長所 ・腹部臓器など軟組織のコン
  トラストは一般にX線CT
  より良い
・骨が写らないため、脳内部
  や関節の診断に特に有用
・空間分解能が高い
・検査時間が短い
・骨、肺、消化管の疾患、
  出血を伴う救急疾患に有用
・腹部の実質臓器、心臓、胎
  児の画像をリアルタイムに
  観察・評価できる
・小型で運用しやすい
・比較的安価
短所 ・ペースメーカなど植え込み
  型医用電子機器の誤動作
・金属製インプラント装着な
  どへの影響の可能性あり
・放射線被ばくあり
・軟組織のコントラストが
  MRIより低い
・空間分解が低い
・断層像ではないため、読影
  の訓練が必要

MRIから発生する電磁界の安全性について

強い静磁界

心臓ペースメーカなど植え込み型医用電子機器や、金属製の外科用クリップなどのインプラント(最近は大半が強磁性ではないが)は磁性の影響を受ける可能性があります。そのため、検査前に患者の検査適応について十分なチェックが必要です。

また、磁界は磁性体に力をおよぼします。そのため、工具などの鉄製品などは強磁界の力を受けて磁界の方向に高速で飛びます。人体への直接的影響ではありませんが、MRI検査室内では注意が必要です。

人体への影響については、静磁界そのものの影響、静磁界のなかを人体が移動することによる影響に関する医療現場の指針があり、それに即してMRI検査は行われています。

高周波磁界

人体の組織は高周波磁界エネルギーを吸収すると温度が上昇します。しかし、通常のMRI装置の高周波磁界レベルでは国際的なガイドライン値を上回る温度上昇はありません。

傾斜磁界(約1kHzのオンオフ切替磁界)

オンオフの切替時に磁界が急激に変動するため、比較的大きな誘導電流が生じ、末梢神経に刺激作用を起こすことが考えられます。このため、MRI製造者を統制する国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)の基準により、患者と医療スタッフが末梢神経刺激を受けないように設計することが定められています。

MRIが関係するガイドライン

患者のばく露

MRIは医療上の目的で使用される機器のため、患者のばく露について国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインは適用されません。しかし、医療上の利益を考慮しつつ、患者の保護を確保するため、2014に発行されたICNIRPガイドライン(静磁界および時間変化する1Hz未満の磁界内での人体の動きにより誘導される電界へのばく露を制限するためのガイドライン)2)は、患者の静磁界への全身ばく露上限値は4テスラとすることを推奨しています。この値までは胎児や乳児への影響を含め、有害な影響の確実な証拠がないことがその根拠です。一般的なMRI装置はこれに準拠しています。

また、強磁界中で頭部を動かすと、めまいや吐き気などの急性症状が現れることが知られています。これは急激な動作で一過性に生じた誘導電流が原因と思われるため、患者はMRIの近くやスキャナ内で動作をゆっくりするように指導されます。

医療スタッフのばく露に関して

ICNIRPの静磁界ガイドライン[▶Ⅳ(参考1)]の職業的ばく露限度値は、頭部および体幹部では2テスラ、四肢では8テスラです。ただし例外として、管理や教育、訓練が行われている職場では全身ばく露限度値として8テスラまでを認めています1)。MRI検査室もこのような職場に該当します。

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