海外の研究

1979 年にウェルトハイマー(Wertheimer)他が超低周波磁界と小児白血病の関連性を指摘して以降、多くの疫学研究が行われています。下表に、WHO 環境クライテリアNo.2381)に記載された「IARC(2002)モノグラフにおいて検討された重要な研究」のうち、症例対照研究の結果を抜粋して示します。研究の進展と共に、ばく露評価がワイアコード法、磁界計算法、測定法と工夫され、研究が陶太されてきました。2007年にWHOが行った疫学研究評価では、ここに挙げた研究の中では、2000年に発表されたアールボムのプール分析が、最も注目され、リスク評価の重要な判断材料となりました。2007年の評価以降も数多くの疫学研究が発表されましたが、最終的にインパクトの大きい2000年、2010年、2021年に発表されたプール分析については、「子供のがん」[▶Ⅱ(6)]で紹介します。

調査国・地域、対象者ばく露区分オッズ比
(95%信頼区間)
研究者(年)
米国:デンバー
 155死亡症例−155 対照
LCC
HCC
算出不可能 Wertheimer & Leeper
(1979)
米国:ロサンゼルス郡
 211 症例−205 対照
 164 症例−144 対照
VHCC
≧ 0.268 μ T
(24 時間寝室測定)
2.2( 1.1−4.3)
1.5( 0.66−3.3)
London等(1991)
スウェーデン
 39 症例−558 対照
≧ 0.2 μ T
(磁界計算値)
2.7( 1.0−6.3) Feychting & Ahlbom
(1993)
デンマーク
 833 症例−1666 対照
≧ 0.25 μ T
(磁界計算値)
1.5( 0.3−6.7) Olsen, Nielsen &
Schulgen(1993)
ノルウェー
 148症例−579 対照
≧ 0.14 μ T
(磁界計算値)
0.3( 0.0−2.1) Tynes & Haldorsen
(1997)
ドイツ:ニーダーザクセン・ベルリン
 176 症例−414 対照
≧ 0.2 μ T
(24時間寝室測定)
2.3( 0.8−6.7) Michaelis 等
(1999)
カナダ:5州
 351 症例−362 対照
 293 症例−339 対照
VHCC
≧ 0.27 μ T
(48時間個人ばく露測定)
1.2( 0.58−2.3)
0.68(0.37−1.3)
McBride(1999)
英国:ウェールズ・スコットランド
 1073 症例−1073 対照
≧ 0.4 μ T
(1.5~48時間測定)
1.7( 0.4−7.1) UKCCSI(1999)
西ドイツ
 514症例−1301 対照
≧ 0.4 μ T
(24時間寝室測定)
5.8( 0.78−43) Schuz(2001)
米国:中西部・中部大西洋沿岸
 408 症例−408 対照
 638 症例−620 対照
VHCC
≧ 0.2 μ T
(24 時間寝室測定他)
0.88( 0.48−1.6)
1.2( 0.86−1.8)
Linet(1997)
  • ※ 個別研究は、ばく露カテゴリーごとのオッズ比を報告していますが、ここでは高ばく露カテゴリーの結果のみを抜粋しています。詳しくは各論文をご確認ください。
  • ※ ワイアコードの区分(LCC:低い、HCC:高い、VHCC:非常に高い)

日本の研究

日本の疫学研究には、1999 年~2001 年に科学技術振興調整費(文部科学省)により実施された「生活環境中電磁界の小児の健康リスク評価に関する研究」があります。

この研究は国立環境研究所の兜氏を中心に行われ、2006 年にがんの専門誌である「International Journal of Cancer」に掲載されました2)。この研究結果は、WHOが2007年に行ったリスク評価の対象となりました。研究の概要は以下のとおりです。

症例および対照の同定は、北関東、南関東、関西・中部、中国・四国、九州の5つのブロック内で行われました。調査地区は18 都府県で構成されており、0~15 歳の小児総数約2000 万人のうち、1070万人(53.5%)が含まれました。

症例は、調査地区内に居住し、1999~2001 年に「急性リンパ性白血病(ALL)」または「急性骨髄性白血病(AML)」と診断された312名、対照は、症例と性別、年齢、居住地域をマッチングさせた603 名です。また、磁界ばく露レベルには、小児の寝室での1 週間連続測定結果が用いられました。電気使用量の季節変動を考慮して、症例と対照のセットについて測定を同時期に行いました。ある症例の1 週間連続測定記録例を下図に示します。この図から、「一日のなかでの時間変化」や「平日と週末」で磁界強度に違いがあることが示されています。

結果として、寝室の磁界レベルが0.1 マイクロテスラ未満を参照群として、0.4 マイクロテスラ以上のオッズ比は、ALL+AML 群で2.56(95%信頼区間:0.76-8.58)、ALL 群で4.7(1.15-19.0)となりました。全体的結果を下表に示します。

 ばく露カテゴリー
<0.1μ T 0.1~0.2 μ T0.2~0.4 μ T>0.4 μ T
全白血病
(ALL+AML)
1 0.91
(0.5−1.63)
1.12
(0.53−2.36)
2.56
(0.76−8.58)
急性リンパ性白血病
(ALL)
1 0.87
(0.45−1.69)
1.03
(0.43−2.5)
4.67
(1.15−19.0)
  • ※寝室の磁界レベル:小児寝室において1週間連続測定した磁界強度の時間加重平均値。

その他の研究としては、小児白血病の研究ではありませんが、笽島氏他による電磁界への職業ばく露と成人の白血病に関する疫学研究があります。結果として、両者に関連性は認められなかったと報告されています。

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