「電磁波問題あれこれ ~第3回連載~」では、超低周波電磁界の物理的特性について説明しましたが、これからは、50や60Hz(ヘルツ)の商用周波電磁界の健康影響について複数回に分けて説明します。

ヒトと商用周波電磁界との相互作用の短期的なばく露影響については、「電磁波問題あれこれ ~第5回連載~」で既に解説しました。 短期的ばく露影響は科学的に再現性をもって確認されていますので、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)や電気電子学会(IEEE)では、短期的影響を基に電磁界のばく露防護ガイドラインを設定しています。 一方、科学的に証明されていない長期的なばく露影響については、未だに結論が出ていません。具体的には商用周波磁界ばく露によって小児白血病が発生するという仮説です。 まだ仮説ですので、リスク管理としてのばく露防護ガイドラインには反映されていません。そこで、これから商用周波磁界の長期的なばく露影響について解説します。

この問題は、1979年(昭和54年)、コロラド州立大学のワートハイマーとリーパー博士が「アメリカ疫学ジャーナル」に発表した疫学(人の病気と環境因子との関連性を統計的に評価する学問)報告が発端となりなりました。 1950から1973年までにコロラド州デンバー地区に於いてがんで死亡した14才以下の子供344人と、健康な子供344人と比較して、各家庭に電気を配るための配電線の敷設パターン(ワイヤコード)と小児がんによる死亡との関連性を調べた研究です。 その結果は、大きな電流が流れる施設の近くに住む子供は、そうでない子供に比べて、小児がんの死亡率が1.6から2.2倍高く、中でも小児白血病は約3倍高いという内容でした。これを受けて、疫学研究や生物学的研究がいろいろと実施されたのですが、1988年にはノースカロライナ州立大学の公衆衛生学のサビッツ教授が、ワートハイマー・リーパーの研究方法を改善したうえで、同じデンバー地区に住む人を対象に同様な調査を行いました。今回はがん死亡者数ではなく、小児がんの罹患率を比較した結果、配電線の近くに住んでいた14才以下の子供の小児がんの発生率は、そうでない子供と比べて1.5~2倍高いという内容です。 つまり、偶然この様な現象が起こったのではなく、再現性のある現象と理解され、米国のみならず全世界で電磁界問題は大きな社会的関心事となりました。

米国政府は、1992年、電磁界調査を拡張・加速するため、エネルギー戦略法案のなかに「EMF・RAPID計画」という研究プロジェクトを発足。 5年間で総額6,500万ドル(約60億円)に及ぶプロジェクトで、半分を国家予算により、残りを民間からの寄付によって賄うという大計画です。 プロジェクトでは、これまでに問題となっていた商用周波磁界の小児白血病、脳腫瘍、乳がん、神経行動、生殖への長期的なばく露影響に焦点が当てられました。 1999年には、まとめ役の国立環境保健科学研究所長は「電磁界が完全に安全とは認められないが、真に健康に危険であるという確率は小さい。」として「電磁界ばく露が有害であることを示す科学的証拠は弱い。」という結論を公表しました。 米国では、この報告の公表を境に、電磁界問題に対する社会的な関心は全体的に減少していきました。

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