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第8回連載で、商用周波磁界と小児白血病との因果関係は認められないが、仮に因果関係があったと仮定して、磁界による過剰リスクを推定した場合、全国で毎年450人の患者が発生し、その中の0.8%の子供の小児白血病に罹る倍率が2倍に上がることになりますので、毎年3.6人の小児白血病患者が磁界によって過剰に発生すると予想されます。
この数値はマクロな公衆衛生行政から見ると決して高い数値とは言えないと説明しました。どうして決して高くないと言えるか。以下でこれを説明します。
小児白血病は血液がんです。発がん性を持たない化学物質や物理的因子であれば、これ以下であれば、健康影響はないと考えられる閾値(いきち)というレベルがありますが、発がん性物質や因子やその可能性が疑われる物質や因子には閾値という概念は存在しません。微量であっても、その摂取量やばく露量に見合った影響があると考えられています。 例えば、軽度の喫煙者でも、非喫煙者に比べると発がんリスクは上昇します。たばこの煙には数多くの発がん性物質が含まれているからです。 受動喫煙問題も同じです。毎日毎日微量のたばこ煙を嫌でも吸わされた結果、肺がんリスクが受動喫煙のない人に比べて、明らかに増加しています。 従ってたばこ煙ばく露をゼロにすべきであり、健康増進法の制定で努力していますが、現状では不可能の状況です。
さて、電気の利用は現代生活には不可欠です。仮に磁界ばく露が小児白血病というがんを発生させるとしても、電気の代替え手段は無く、電気の利用を中止することは出来ません。その場合は、磁界ばく露による健康リスクを定量的評価する必要があります。つまり、実際との程度の害があるのかを数量的に推定します。 もし、その想定被害数が非常に大きい場合は、例え電気が現代生活に不可欠であり、代替え手段がないとしても厳しい規制が必要と行政は判断すると思われます。
一般論として、発がん性物質へのリスク管理手法として、リスクがある一定の確立以下であれば、実質的に安全であると見なし得るばく露量(実質的安全量、Virtual Safe Dose:VSD)という概念を導入しています。どの程度の確率であれば実質的安全であるかという判断は、科学の領域ではなく、行政的な判断領域です。 我が国を始め、欧米では多くの場合生涯の発がんリスクが10-5以下をVSDとしています。ある環境因子Aによる発がんリスクが10-5であると仮定した場合、ある人間がこのAのばく露を生涯受けた時のそのAに起因する発がん確率が100,000分の1、つまり10万人に1人であることを意味しています。 これを日本の人口1億2740万人と平均寿命80歳を適用すると、1.274 x 108 x 10-5 / 80 = 15.93となり、ばく露による1年間の過剰発がん患者数は16人となります。 これを「高い」あるいは「低い」と判断するか行政的判断が求められることになります。 我が国の大気汚染物質の環境基準や飲み水に含まれる発がん物質の水質基準では、個々の化学物質に対してそれぞれの発がんリスクを10-5以下として、これをVSDとしています。したがって、冒頭の毎年3.6人の小児白血病患者発生は、その中のある一つ物質がもたらすリスクよりも低い数値であると理解されます。