オランダ保健評議会(HCN)が5Gと健康についての報告書を発表
2020.09.03掲載
2020.11.12更新
オランダ保健評議会(HCN)は2020年9月2日付で、「5G(第5世代移動通信)と健康」と題する報告書を発表しました。
この報告書はオランダ語で書かれていますが、英語の要約版(Executive summary)では次のように述べられています。
移動通信の最新規格(5G)はより高速で、より信頼性が高く、より多くのデータを同時に処理することができます。5Gは移動通信への増え続ける需要に対処するため、また、自動運転や遠隔手術といった新たなアプリケーションを可能にするために開発されました。しかしながら、5Gネットワークの出現は、健康に対する5Gの潜在的影響力についての社会的懸念を生じています。そのため、オランダ議会下院は保健評議会に対し、これについて何が知られているかについての科学的見地からの分析を要請しました。保健評議会の「電磁界についての常設委員会」が、この論点を調査しました。
5G周波数の健康への影響はまだ十分には研究されていません
5Gはある程度、第3世代(3G)や第4世代(4G)といった既存世代の移動通信と同じ周波数を利用しています。
加えて、5Gは新たな周波数帯を利用します。5Gネットワークの運用は始まったばかりです。よって、5G用に取得された周波数の電磁界への(長期的な)ばく露の健康影響については、まだ研究はありません。但し、新たな5G周波数に非常に近い周波数を利用するアプリケーションは調査されています。これには、2G、3G、4G、ならびにWi-Fiおよびレーダーが含まれます。実際の健康リスクは不明です
この報告書は、5G周波数によって生じるかも知れない健康影響の分析の第一歩です。今のところ、同委員会は5G周波数へのばく露が実際にヒトの健康にリスクを生じるかどうかという疑問に答えることはできません。その理由は二つあります。一つは、そのような声明の発出には、ヒトの健康にダメージを及ぼし得るばく露レベルについての知識が必要です。それには、同委員会が実施し得る科学的データのより詳細な分析が必要です。世界保健機関(WHO)は現在、そのような分析を実施しているところであり、2022年に完了の見込みです。第二に、5Gの導入後の無線周波電磁界への実際のばく露がどのようなものになるかの知識が必要です。それについては今のところ不明です。というのは、先述の通り、5Gの利用は部分的に始まったばかりであるためです。
5G周波数と健康へのダメージとの関係は示されていませんが、多くの状況ではそれを排除できません
ゆえに、同委員会は、5Gの周波数を用いた電磁界には健康を害する潜在的可能性があるという徴候があるかどうかを調査してきました。同委員会は、無線周波電磁界へのばく露と疾病および症状の発生との関連が知られているかどうかをレビューしてきました。同委員会によれば、がんの発生、男性の生殖能力の低下、妊娠不良および先天性欠損症が、無線周波電磁界へのばく露と関連しているかも知れないということを排除できません。但し、同委員会は、ばく露とこれらの疾病または症状、およびその他の疾病または症状との関連は証明されておらず、その可能性も高くない、と考えています。
同委員会は、無線周波数電磁界と生物学的プロセスの変化との間にあるかも知れない関連についても調査してきました。脳での電気的活性の変化がばく露と関連している可能性は高いものの、それが健康の意味において好ましいか好ましくないかは不明です。大多数のその他の生物学的プロセスについては、その変化が無線周波電磁界へのばく露と関連しているということは証明されておらず、その可能性も高くありませんが、それを排除することもできません。免疫系およびホルモンレベルの変化についてのみ、関連がないことが示されています。26 GHz前後の周波数へのばく露の影響についての研究もありません。同委員会の推奨事項
同委員会は、4項目の推奨事項を議会に提出しました。
- 5G用の低い周波数帯(3.5 GHzまで)は、通信アプリケーションおよびWi-Fiで既に何年も利用されており、何らかの証明された健康への悪影響がないことから、同委員会は、これらの周波数帯の利用を停止または制限する理由はないと見なします。但し、5Gシステムの運用開始前、運用開始中、および運用開始後にばく露をモニタすることが望ましい、と推奨しています。これにより、5Gの導入の結果として無線周波電磁界へのばく露がどの程度変化するのかを明確にし、また、何らかの長期的な健康リスクをより良好に推定することができるようになります。WHOの分析も、このリスクの推定に利用できます。
- 同委員会は、以下についての更なる研究を推奨します。
- 5G周波数へのばく露とがん、男性の生殖能力の低下、妊娠不良および先天性欠損症との関連についての疫学研究。オランダが参加している、携帯電話の利用について現在進行中の国際研究が、その役割を担うことができます。
- 26 GHz周波数帯の電磁界ばく露の健康影響についての実験研究。
- ワイヤレス通信(3G、4Gおよび5G)の結果としての個人のばく露の全体像を把握するためのシナリオ研究
- 同委員会は、その潜在的健康リスクが調査されていない間は、26 GHz周波数帯を5Gに利用しないことを推奨します。
- 最後に、同委員会は、オランダにおけるばく露政策の根拠として、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)からの最新のガイドラインを用いることを推奨します。最新のICNIRPの基準の下でのばく露であっても、健康に影響を及ぼす潜在的可能性は排除できないことから、同委員会は、慎重なアプローチ[cautious approach]を取ること、および、ばく露を合理的に達成可能な限り低く[as low as reasonably achievable]維持することを推奨します。
この報告書の要約、全文、および背景文書の英語版は、以下のURLから入手可能です。