携帯電話使用と脳腫瘍のリスクに関する
インターフォン研究報告への諸機
世界保健機関(WHO)の付属機関である国際がん研究機関(IARC)が中心となって、 日本を含む13カ国の研究データをもとに、携帯電話の使用と脳腫瘍との関連を調べたインターフォン研究(疫学研究)の報告が、2010年5月17日に公表され、その公表文(英語原文)と電磁界情報センターで訳した和訳文を2010年5月19日にホームページに掲載しました。
この研究報告の原著論文、公的機関のコメントと学術専門家グループ(Rapid Response Group;RRG)の見解、および今後の世界保健機関(WHO)の活動予定などを、以下に紹介します。
1.原著論文
- 論文のタイトル
- Brain tumour risk in relation to mobile telephone use: results of the INTERPHONE international case-control study(携帯電話使用に関連する脳腫瘍リスク:INTERPHONE国際症例対照研究の結果)a)
- 著者
- INTERPHONE研究グループ
- 掲載学術誌
- International Journal of Epidemiology 2010; 1-20. doi:10.1093/ije/dyq079
2.公的機関のコメント
オーストラリア放射線防護庁(ARPANSA)
『INTERPHONE研究についてのWHO報告公表に関するオーストラリア放射線防護安全庁(ARPANSA)の声明』
イギリス健康保護庁(HPA)
『INTERPHONE』
イギリス非電離放射諮問部会(AGNIR;保健防護庁の諮問部会)
『携帯電話使用と関連した脳腫瘍リスク:INTERPHONE国際症例対照研究の結果』
ドイツ放射線防護局(BfS)
『INTERPHONE研究では、携帯電話の使用による脳腫瘍リスクの増大は確認されない』
アメリカ食品医薬品局(FDA)
『携帯電話使用が脳腫瘍リスクに関連する証拠なし』
アメリカ国立がん研究所(NCI)
『携帯電話の使用による脳腫瘍リスクの増加を国際研究は示さない』
フランス スポーツ保健省(MSS)
『国際研究「INTERPHONE」の結果に関するプレスリリース』
スウェーデン カロリンスカ研究所(Karolinska)
『携帯電話を10年間使用しても脳腫瘍になるリスクは高まらない』
3.電磁界情報センター 学術専門家グループ(RRG*1)の見解
- 携帯電話使用に関連した神経膠腫または髄膜腫のリスク上昇は観察されず、しかし神経膠腫と髄膜腫の両方のリスク減少が携帯電話の規則的使用者で観察された。 これはバイアスを反映しているかもしれない。
- 初めて携帯電話を使用した以降の期間の長さに関連した髄膜腫または神経膠腫の過剰リスクについては、 何らの示唆も現れなかった。脳腫瘍のリスクは、携帯電話を最大期間(10年またはそれ以上)使い続けている人において増加していなかった。
- 累積通話回数または累積通話時間の増加に伴って脳腫瘍のリスクが上昇する傾向はなかった。 神経膠腫のリスク上昇が、累積通話時間の最高カテゴリーに属する、対象者の10%の人においてのみ観察され、 これは、中期的使用者または長期的使用者より短期的使用者ではっきりと見られた。 しかし、この結果は、調査におけるバイアスまたは他の誤差源によるものである可能性が非常に高いとの意見で論文著者らは一致している。
- 携帯電話での使用頭側と同じ側に髄膜腫または神経膠腫が生じるか否かを明らかにするための分析によれば、この二つのがんの過剰リスクは見いだされなかった。がんと同じ頭側で携帯電話が使用された場合(同側)の規則的使用者で神経膠腫のリスクが上昇しているように見えたが、この結果はバイアスで説明されるであろう。
- アナログまたはデジタルの携帯電話の規則的使用者で、この二つのがんの過剰リスクは見られなかった。
- 全体として、神経膠腫または髄膜腫のどちらについても、携帯電話の使用に伴うリスク上昇は観察されなかったと論文著者らは結論した。 ばく露の最高レベルで、「同側」ばく露において、神経膠腫のリスク上昇および髄膜腫でのやや小さな上昇、 また神経膠腫については側頭葉の腫瘍でリスク上昇の示唆が見られた。しかし、バイアスと誤差のため、これらの分析から導かれた結論の強固さは限定的となり、因果的な解釈はできない。
- 注釈
- *1 RRG:電磁界情報センターが組織する専門家ネットワーク の一部で、海外の専門家からなる科学論文レビューグループ
電磁界情報センター Rapid Response Group マイク・レパコリ教授 要約
国際がん研究機関(IARC)の今後の予定
国際がん研究機関(IARC)は、携帯電話使用や電波の潜在的発がん性についての包括的なレビューを2011年5月24-31日に予定している。 このレビューでは、インターフォン研究からの新たなデータを含む、発表済みの全ての疫学的及び実験的証拠が検討する。
参考文献
a)Elisabeth Cardis ;CREAL, Brain tumour risk in relation to mobile telephone use: results of the INTERPHONE
international case-control study International Journal of Epidemiology 2010; 1-20. doi:10.1093/ije/dyq079
(携帯電話使用に関連する脳腫瘍リスク:INTERPHONE国際症例対照研究の結果)
b)Vrijheid M, et al., Recall bias in the assessment of exposure to mobile phones.
Journal of Exposure Science and Environmetal Epidemiology. (2009) 19:369-381
(携帯電話からのばく露評価における想起バイアス)
上記論文の抄録和訳文は、電磁界情報データベースで閲覧が可能です。