国際がん研究機関(IARC)が無線周波電磁界の発がん性に関するレポートを公表

2011.06.27掲載

≪国際がん研究機関(IARC)が無線周波電磁界の発がん性に関するレポートを公表≫

国際がん研究機関(IARC)は、5月31日付報道発表で述べた予定の通り、Lancet Oncologyの6月22日付電子版において、無線周波電磁界の発がん性評価結果に関する簡潔なニュースレポートを公表しました。その概要を紹介します。

タイトル:無線周波電磁界の発がん性
原文タイトル:Carcinogenicity of radiofrequency electromagnetic fields.
原文機関名:International Agency for Research on Cancer.
出典:http:// www.thelancet.com/oncology Published online June 22,2011 DOI:10.1016/S1470-2045(11)70147-4

(発表内容の概要)

2011年5月、フランス、リヨンの国際がん研究機関(IARC)で開催されたIARCモノグラフワーキンググループの会議において、無線周波電磁界(RF-EMF)の発がん性評価について討議が行われました。既に報道発表で、『無線周波電磁界を“ヒトに対して発がん性があるかも知れない”(グループ2B)に分類した』という評価結果は公表され、その詳細はIARCモノグラフ第102巻として出版予定です。今回のニュスレポートは、その内容をA4版2ページで簡潔に速報したものです。
レポートの内容は、RF-EMF(周波数範囲30kHz-300GHz)へのばく露実態とそのレベル、RF-EMFと身体とのカップリングの基礎的事項を簡単に述べた後、発がん性評価の根拠とした疫学研究と生物学的研究の証拠の強さの判定結果について説明しています。
RF-EMFばく露は、個人用装置の使用(例えば、携帯電話、コードレス電話、その他の個人用無線通信機器)、職場における発生源(例えば、高周波ヒータ、高出力パルスレーダ)、および環境発生源(例えば、携帯電話基地局、放送用アンテナ)に分類して検討した結果、一般公衆では、携帯電話のような身体に接近した手持ち型の送信機から受けるばく露が最も高いと判断されました。就労に伴う高出力発生源へのばく露では、RFエネルギーの身体への蓄積は高くなるかも知れませんが、脳に蓄積する局所的エネルギーは一般的に少なく、屋上またはタワーに設置された携帯電話基地局、およびテレビ・ラジオ放送局からの脳への典型的ばく露は、GSM携帯電話システムの送受話器からのばく露より数桁低いことなどが例として示されています。また、ディジタル化コードレス通信(DECT)電話の使用による平均的ばく露は、GSM電話についての測定値のおよそ5分の1の低さであり、第3世代(3G)電話の平均放射RFエネルギーは、信号が強い場合のGSM電話の約100分の1の低さです。同様に、ブルートゥース無線ハンズフリーキットの平均出力は携帯電話のおよそ100分の1の低さです。
RF-EMFsにより身体内に生じる電磁界の分布は、身体から発生源までの距離と出力レベルの他、様々な物理的要因で決まるものですが、その分布は非一様性が大きいのが特徴です。音声通話時に携帯電話を耳に当てることで、脳内の比吸収率(SAR)は比較的高くなります。携帯電話の機種、頭部とアンテナの位置関係、携帯電話の持ち方、頭部の解剖学的構造、携帯電話と基地局の接続品質なども関係します。小児が使用する場合、成人の使用に比べて、RFエネルギーの蓄積は脳では2倍高くなり、頭蓋の骨髄で最大10倍高くなるという研究結果や、ハンズフリーキットの使用により、耳での使用の約10%以下にまで脳のばく露が低くなることを示した研究結果も紹介しています。
疫学研究について、ワーキンググループは、無線(携帯またはコードレス)電話の使用と神経膠腫に関連する1件のコホート研究と5件の症例対照研究を有用な情報を提供する可能性があるものとして検討しました。
コホート研究は、デンマークの携帯電話会社2社の1982-1995年の間の契約者420,095人中の神経膠腫症例257人について調査したもので、神経膠腫発生率は全国平均値に近いものでした。この研究方法は、携帯電話の契約を携帯電話使用の代替指標に用いたため、ばく露評価の誤分類が大きいと判断されました。症例対照研究5件のうちの初期の3件は、まだ携帯電話使用が少ない時代が対象であるため、影響推定値は全体として不正確で有用ではないと判断されました。時間的傾向分析は、携帯電話使用の増加が起きた後の脳腫瘍発生率上昇を示していません。ただし、10年以上後に表れる過剰リスク、使用者の一部にのみ表れる影響、脳腫瘍のサブセットにのみ表れる影響の捕捉には研究の限界があると判断されました。したがって、証拠として採用された症例対照研究はインターフォン研究とスウェーデンの研究グループの研究の2件となりました。
INTERPHONE研究のプール分析では、神経膠腫症例群2708人、対照群2972人(それぞれの参加率は64%、53%)について、携帯電話使用者群を非使用者(使用経験なし)群と比較して算出したオッズ比(OR)は0.81(95%信頼区間:0.70-0..94)でした。累積通話時間の10分位カテゴリー別のORsは、最高カテゴリー(>1640時間)以外では一様に低いか、1に近い値でしたが、最高カテゴリーでの神経膠腫ORは1.40(95%信頼区間:1.03-1.89)でした。インターフォン研究の神経膠腫症例のうち、その腫瘍部位での累積的RFばく露量が推定できた553症例において、その推定ばく露量を用いて神経膠腫のORを調べた研究を引用し、診断前の7年以上のばく露については、その推定RFばく露量上昇に伴い神経膠腫のORが上昇したが、診断前の7年以内についてはそのような関連はなかったことに言及しています。
スウェーデンの研究グループのプール分析では、神経膠腫症例群1148人(1997-2003年に確認されたもの)、対照群2438人(それぞれの回答率、85%、84%)について、郵送による自記式質問紙の後に続いて電話インタビューで得たばく露情報に基づき、1年以上の携帯電話使用者における神経膠腫のORは1.3(95%信頼区間:1.1-1.6)でした。使用期間および通話時間の増加とともにORは上昇し、2000時間を上回る使用でのORは3.2(95%信頼区間:2.0-5.1)でした。
INTERPHONE研究もスウェーデンのプール分析も、想起の誤りおよび参加の選択によるバイアスの影響を受けやすいものの、個々の知見をバイアスの反映だけを理由に却下することはできないし、携帯電話のRF-EMFばく露と神経膠腫との因果的な解釈はあり得るかも知れないとワーキンググループは結論づけました。聴神経鞘腫に関しては、神経膠腫より実質的に症例数が少ないものの、2件の研究に基づき同様の結論を導き出しました。さらに、日本の研究による携帯電話の同側使用に関連した聴神経鞘腫のリスク上昇の証拠にも目を向けています。  髄膜腫、耳下腺腫瘍、白血病、リンパ腫、その他の腫瘍タイプに関しては、携帯電話使用との潜在的な関連について結論に達するには入手できる証拠では不十分であると判断されました。また、RF-EMFの職業的ばく露に関しても、何らかの結論に達するには入手できる証拠では不十分であると判断されました。
以上から、無線電話のRF-EMFばく露と神経膠腫および聴神経鞘腫との間の陽性の関連を根拠に、RF-EMFの発がん性について「ヒトにおける限定的証拠」があると、ワーキンググループは結論づけました。ただし、ワーキンググループのメンバー数人は、ヒトにおける現在の証拠は「不十分」との見解を表明したことが付記されています。彼らの見解は、2件の症例対照研究に不一致があること、INTERPHONE研究結果にばく露-反応関係がないこと、デンマークのコホート研究で神経膠腫や聴神経鞘腫の発生率の上昇は見られないこと、現在までに報告されている神経膠腫の発生率の時間的傾向に携帯電話使用の時間的傾向との類似点はないことを根拠にしています。
生物学的研究について、ワーキンググループは、2年間のがんの生物影響試験7件を含む、齧歯類でRF-EMFの発がん性評価研究40件以上をレビューしました。慢性的生物影響試験によれば、2年間のばく露で腫瘍発生率の上昇は示されませんでしたが、7件の慢性的生物影響試験うちの1件で、RF-EMFばく露動物に悪性腫瘍の総数の増加が見られました。その他の動物研究で、ばく露を受けた動物でのがん発生率上昇に言及したのは、腫瘍好発動物を用いた研究12件のうちの2件とイニシエーション-プロモーションのプロトコルを用いた研究18件のうちの1件でした。共発がん性の研究6件のうちの4件は、既知の発がん物質と組み合わせたRF-EMFばく露後にがん発生率の上昇を示しました。しかし、ヒトのがんに対するこの種の研究の予測的価値は不明であるとし、ワーキンググループは、RF-EMFの発がん性に対して、実験動物での「限定的証拠」があると結論づけました。
ワーキンググループは、遺伝毒性、免疫機能への影響、遺伝子およびタンパク質発現、細胞情報伝達、酸化ストレス、アポトーシスを含む、発がんメカニズムに関連する測定項目について多数の研究をレビューしました。その結果、RF-EMFがヒトのがんを誘導するメカニズムについての弱い証拠が提出されているに過ぎないと結論づけました。 最後に、このニュースレポートは『ヒトおよび実験動物における限定的証拠を考慮して、ワーキンググループはRF-EMFを「ヒトに対して発がん性があるかも知れない」(グループ2B)に分類した。この評価結果をワーキンググループメンバーの大多数は支持した。』と述べています。

以 上

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