無線周波電磁界に関連する海外(オランダ保健評議会)情報の紹介について
2011.10.21掲載
≪無線周波電磁界に関連する海外(オランダ保健評議会)情報の紹介について≫
オランダ保健評議会(HCN)は2011年10月18日付けで、「子供の脳に対する無線周波(RF)携帯電話信号の影響」と題する報告書(全92頁)を公表しました。報告書の概要および「第5章 結論と推奨」の概要を紹介します。
発行元:Health Council of the Netherlands
原文タイトル:Influence of radiofrequency telecommunication signals on children's brains
- ○ HCNについて
- HCNは1902年に設立された独立的な学術諮問機関で、その責任範囲は、「公衆衛生および健康(サービス)研究に関して知識の最新レベルに基づいて政府と議会に勧告を行う等々」とされています。HCNは関係各省からの勧告の要請を受けて、自ら責任で勧告報告書を公表しています。今回の報告書はHCNの電磁界委員会が作成しました。
- ○ 報告書の概要
- 全体の構成は以下の通りです。
- 第1章は序論として、報告書の目的と範囲、ばく露限度値の説明、第2章はヒトの脳の発達の重要な点について要約、第3章は子供の脳に対する無線周波電磁界の影響という観点から、細胞研究、またヒトや動物での研究では脳の機能・行動や認知・血液脳関門・脳電図への影響に関する研究、さらに疫学研究のレビュー結果の総括、第4章はドシメトリとばく露限度値、第5章は結論と推奨を述べています。ここでは、第5章の概要を紹介します。
- ○ 第5章 結論と推奨
- ヒトの脳の発達は複雑なプロセスである。若い脳は成人の脳に比べ修復のための大きな受容力を持つため、悪い影響はより容易に補償されるかも知れないが、その一方で、電磁界などの外部要因へのばく露が脳の発生に影響して悪い影響に至るかも知れないことも考えられる。
- 5.1 健康影響は見つかっているのか?
- 本委員会が回答を求められた最初の質問は、「携帯電話の使用、生活環境における携帯電話基地局アンテナやWiFi設備の存在が、それらが電磁界ばく露を与えることにより短期間に子供の健康への有害な影響のリスクを上昇させることになるのか?」である。
その回答は、「最新の入手できる知識に基づけば、そのような状況ではない。しかし多くの研究分野においてこの知識は未だ限定的なものであり、入手できるデータには一貫性がない」である。
近年、小児および幼若動物の健康に対する電磁界ばく露の影響可能性についてますます多くの研究が完了している。数年前の状況に比べればずっと多くのデータが入手されているが、低年齢の小児における影響に関してはそうなっていない。ほとんどの研究はもっぱら10歳以上の小児についてのみ行われている。今の時点で結論として言えることは、未だ相対的に限定されたデータを見る限り、子供が携帯電話、携帯電話基地局アンテナまたはWiFi設備が発生する無線周波電磁界のばく露を受けたとしても、脳の発達または健康に対して何らかの影響があることは示されていない。 - 5.2 さらに研究が必要である
- 子供の健康に対する電磁界の影響について具体的な主張をするために、さらに多くの研究、特に長期的影響に関する研究が必要である。 そのような研究が現在進行中である。数年のうちに研究結果が公表された時、本委員会は新たな評価を実施する予定である。
最近公表された無線周波電磁界に関する研究アジェンダでWHOが推奨しているのは、小児および思春期層における無線通信装置の使用と行動学的、神経学的異常およびがんの発症率との関係を調べるコホート研究である。本委員会はこの推奨を支持する他に、種々の年齢の子供で種々のタイプの信号を用いてもっと多くの実験研究を行うことも推奨する。しかしながら本委員会は子供で長期的研究を実施することは実際には不可能なことを理解している。子供は短い間に多くの重要な身体的変化を経験する。それに加えて、新しい様式の通信手段が急速に導入され、特に若い人々はそれを素早く受け入れる。両者はばく露パターンを絶えず変化させることにつながる。
ドシメトリ研究から、エネルギー吸収のパターンおよび大きさの点で成人と子供には違いがあることが示されている。一定の条件下で成人より子供の方がピークSARが高くなるかも知れず、頭部内でピークSARが出現する位置も変化するかもしれない。頭部全体で平均したSARは成人と子供で違わない。
このような差は成人と子供の解剖学的な差異によるものである。この差は低年齢の子供で最も大きく、年齢が増すにつれて消えていく。ピークSARの位置もまた年齢が増すにつれて移動するであろう。電話機の機種および保持の仕方もまたピークSARの大きさと位置の決定に大きく関与する。その上、人口集団内には大きな解剖学的なばらつきがあり、現在利用可能な限られた数のモデルにより計算されるものよりそのばらつきは大きい。したがって、ドシメトリ研究のデータに基づけば、携帯電話の使用による子供の電磁界ばく露は成人のものより大きなリスクにつながると仮定する根拠は何もない。
今後の研究では、種々の年齢の子供のMRI画像に基づいたもっと多くのモデル、特に現在は実際には作られていない0歳から6歳までと15歳以上の子供のモデルを用いて計算を行うべきである。また姿勢の影響も調べるべきであろう。加えて、子供の種々の組織の電磁的物性に関するデータを収集すべきであろう。 - 5.3 ばく露基準は子供にとって十分であるか?
- 本委員会が回答を求められた二番目の質問は、「成人に対するものとは別に子供に対するばく露限度値を提案する理由はありますか?」である。
その回答は、「いいえ、ありません。なぜならば、子供およびその他の影響を受け易い集団が潜在的に持つ感受性を上乗せすることは、ばく露限度値の設定において明示的に考慮されているからです」である。
それは、公衆のばく露限度値に不確かさに対する十分なマージンとして50倍という係数を持たせた理由のひとつである。この報告書に提示したデータに基づき、本委員会は成人に対するものとは別に子供に対するばく露限度値を推奨する理由を見出していない。
ところで、HCNの1997年の無線周波域のばく露制限値はICNIRPの1998年のそれとかけ離れているが、最近の科学的データに基づけば、2 GHz 付近の周波数域の現在の参考レベルでは低年齢の子供モデルにおけるSARが最大許容値を超過することが示されているため、現在、本委員会は新しいばく露制限値の提案を行っている(詳細の訳出省略)。その提案をGSM、UMTS、Wi-Fi に当てはめた参考レベルは約40-70 V/m から28 V/mに引き下げられることになる。ただし、オランダの公衆が立ち入る場所において28 V/mを上回る電界強度は現在、生じていないので、この変更による実際上の影響は殆どない。