IARCから公表された「携帯電話使用とがんのリスクとの
関連の可能性:質問と回答」について

2011.11.16掲載

国際がん研究機関(IARC)のメディアセンタは、2011年10月21日付のIARC Newsとして「携帯電話使用とがんのリスクとの関連の可能性:質問と回答」を公表しました。

電磁界情報センターでは、公表内容の主要な点を読みやすい形にまとめた概要を日本語で作成しましたので、ご紹介します。不明な点は原文をご参照下さい。

概要(日本語訳)

携帯電話使用とがんのリスクの関連可能性に関して当機関が示した先般の科学的結論について、もう少し広い文脈の中で把握してもらうことを目的として、以下の質問と回答を作成しました。

1. IARCは科学研究分野にどのような貢献をしているのでしょうか?

  • IARCは、各国との共同研究を含め当機関独自の研究を実施しています。またヒトに対する発がんリスクの評価に関するIARCモノグラフプログラムも運営しています。
  • IARCのモノグラフ部門は、ヒトに対する発がんリスクの評価に関するプログラムを運営しています。 この部門は、専門性と利益相反の基準により選抜された研究者から成るワーキンググループを召集します。 その際、IARCは科学的事務局を務めますが、分類には参加しません。
  • IARCの環境・放射部門は、がんの原因の理解と究極的には一次予防に貢献する大規模疫学研究を実施する研究グループです。

2. 部門の活動領域はどのような関係にありますか?

  • IARCモノグラフは、ある時点で成された評価です。IARCの研究もワーキンググループによる評価の中に含まれます。モノグラフ評価の後は、モノグラフ会議で指摘された知識の欠落した領域などについてIARCは研究を続けます。
  • 2011年5月、上記のモノグラフプログラムの枠内で国際的な専門家から成るワーキンググループを召集しました。 ワーキンググループは携帯電話から放射されるような無線周波電磁界を“ヒトに対して発がん性があるかもしれない” (IARCグループ2B)に分類しました。ワーキンググループは、2011年5月までに入手できた全ての科学的出版物を評価しました。 これには疫学研究、がんのバイオアッセイ、メカニズムおよびその他の関連データが含まれます。 関連についてのヒトでの証拠は“限定的”と判断されました。すなわち、全ての疫学研究ではないものの、 一部の疫学研究が神経膠腫または聴神経鞘腫のリスク上昇を示唆する結果を示しましたが、 これを因果関係と考えるにはバイアスおよび交絡が根拠のある確信をもって排除できませんでした。
  • このモノグラフ評価とIARCが関与したその前後の研究との関係を整理すると以下のようになります。
  • IARCは、携帯電話使用と神経膠腫、髄膜腫、聴神経鞘腫のリスクに関する国際的症例対照研究(Interphone研究)をコーディネートしました。 神経膠腫および髄膜腫に関するInterphone研究の結果(International Journal of Epidemiology、2010年5月)は、 上記のワーキンググループで検討された科学文献のうちの1件に入りました。
  • 聴神経鞘腫に関するInterphone研究の結果(Cancer Epidemiology、2011年8月)は、 携帯電話の最もヘビーな使用者群に限って見られた腫瘍のリスク上昇を示しましたが、 他の使用者群にわたる傾向は何も示しませんでした。この論文はモノグラフ会議の時点で既に印刷中であったため、 上記のワーキンググループはこの研究結果を入手できていました。
  • IARCはデンマークの全国規模の携帯電話契約者コホート研究にも参加しています。また高品質のがん登録を有する国々における脳腫瘍の発症率の時間的傾向を監視しています。
  • デンマークの全国規模の携帯電話契約者コホート研究の最新の結果(British Medical Journal、2011年10月)は、 10年以上の長期使用を含めた携帯電話使用と神経膠腫またはその他の全ての脳腫瘍のリスクとの間に何も関連を示しませんでした。 これは、IARCモノグラフ会議の時点では入手できなかった新しい結果です。

3. より最近の研究結果はモノグラフ評価とどのように結びつきますか?

  • 新しいモノグラフ評価とIARCの個々の研究との間には明確な一貫性があります。 これまでの研究を見れば、証拠は限定的ながら(以下参照)、携帯電話使用と脳腫瘍のリスクとの関連を排除することはできません。 今後の研究が、もしかしたら無線周波電磁界に発がん性があるかも知れないという問題にもっと確定的な答えを与えるのを待つ間、 携帯電話の頻繁な使用を特に子供は避けること、またはハンズフリーセットを使用することでばく露の低減ができます。
  • モノグラフ評価におけるヒトでの限定的な証拠とは、信頼できると考えられるヒトでの証拠を基盤にしていますが、 偶然、バイアス、交絡を根拠のある確信をもって排除できていません。これでは仮にリスクがあるとしてどの程度の大きさになるかという仮定は成り立ちません。 Interphone研究はそのような結果を1つ報告しましたが、著者らの結論は「最高のばく露レベルにおいて神経膠腫のリスク上昇の示唆があったが、 バイアスと誤差のため因果的解釈はできない」となっており、同様の結論は聴神経鞘腫についても導き出されています。
  • デンマークのコホート研究は携帯電話の使用量の情報を得ていないため、最もヘビーな使用者グループでのリスクを調査することができません。 したがって、この研究は低いバイアス潜在性を持ちつつ、関連なしというInterphone研究の全体的結果を確認しています。但し、ヘビーユーザで小さな上昇があるかも知れないという問題の結論は保留されています。 全ての研究に共通していることは、携帯電話を15-20年間使用した後にしか現れてこないリスクを調べることはできていないことであります。
  •  "2B”の分類は、更なる研究の要求を意味しているので、IARCの環境・放射部門はこの未解決の問題に貢献するために研究の努力を続けます。

4.IARCモノグラフ評価は携帯電話使用に関する世界保健機関の推奨にどのように影響を与えますか。

  • 両者は全く別の、しかし相互に関係するものです。 研究機関であるIARCは携帯電話とがんリスクに関する最新の証拠の基礎を提供します。 それを受けてWHOはその科学的情報を吟味し、携帯電話使用に関するWHOのこれまでの推奨を更新する必要があるか否かを判断します。 IARCモノグラフワーキンググループへのWHOの出席を含め、両機関は緊密な対話によりこのような情報交換を促進しています。

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