ICNIRPがRFガイドライン改定版の草案を発表
2018.07.12掲載
2018.08.01更新
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は7月11日、無線周波領域(RF:100 kHzから300 GHzまで)の電磁界へのばく露制限に関するガイドラインの改定版の意見聴取用草案(Public Consultation Draft)を発表しました。
この草案は、ICNIRPが1998年に発表した「時間変化する電界、磁界及び電磁界(300 GHzまで)によるばく露を制限するためのガイドライン」のうち、生体影響のメカニズムとして熱作用が支配的となる100 kHzから300 GHzまでの周波数範囲を改定するものです。
ICNIRPは、論理的、厳密かつ透明性のあるガイドライン策定の一環として、ICNIRP委員ではない多くの専門家に対し、批判と意見提示を奨励しています。この草案に対する意見提出期限は2018年10月9日です。90日間の聴取期間後、全ての意見は草案の最終化のためにICNIRP委員によってレビューされます。ガイドライン最終版の発表日に関する情報は、ICNIRPのウェブサイトに適宜提示されます。
この草案は、ガイドライン本文と2編の附録(Appendix A及びB)で構成されています。これらの文書、ならびに意見提出用の書式は、以下のURLからダウンロードできます。
- JEICによる注記
- ICNIRPは、静磁界(0 Hz)については2009年に、静磁界内での人体の動作及び1
Hzまでの時間変化する磁界については2014年に、刺激作用が主なメカニズムとなる低周波領域(1Hzから100
kHzまで)の電界及び磁界については2010年に、それぞれガイドラインを改定しています。
参考情報:https://www.jeic-emf.jp/academic/international/icnirp/1582.html
解説
この草案における限度値の導出のための基本的な手順は、1)健康影響閾値(health effect thresholds)の同定、2)低減係数(reduction factors)の適用による基本制限(basic restrictions)の導出、3)適用がより容易な防護手段の提示のための参考レベル(reference levels)の導出 の3段階で構成されています。
健康影響閾値は、世界保健機関(WHO)が2014年に発表した「RFに関する環境保健クライテリア(EHC)」の意見聴取用草案、 欧州委員会の「新興・新規同定された健康リスクについての科学委員会(SCENIHR)」が2015年に発表した「電磁界ばく露の潜在的健康影響に関する意見書」、 及びその後に発表された細胞研究から疫学までの広範な関連論文の精査に基づいて同定しています。 結論は、RFががん等の疾病を生じる証拠はなく、確立されている作用のメカニズム(即ち熱作用)による影響以外にRFが健康を害するという証拠もない、というものです。
基本制限
100 kHzから300 GHzまでのRF全身ばく露(平均化時間は30分間)については、
深部体温の1℃上昇を運用上の健康影響閾値と同定し、
最近の数値ドシメトリや様々な動物種を用いた実験研究からの一般化により、
これを生じるばく露条件として、全身平均の比吸収率(SAR)の下限を約4 W/kgと保守的に推定しています。
このSARに対して、職業的ばく露についての低減係数10(即ち10分の1:科学的不確かさ、
人口集団における体温調節能力や深部体温の健康影響閾値の違い等を考慮)、
公衆ばく露について更に低減係数5(あわせて50分の1:ばく露を認識しておらず、
リスク緩和が期待できないことを考慮)を適用して、基本制限をそれぞれ表2のように導出しています。
6GHzを超える周波数範囲では、温度上昇は周波数に伴い表層的になりますが、全身平均SARを保守的に6 GHz以下と同様に制定しています。
- JEICによる注記
- 草案原文では、表1はガイドライン中に用いられる物理量及び対応する単位の説明を示しています。
6 GHz以下のRFへの局所ばく露(平均化時間は6分間)については、 潜在的に有害な局所温度を41℃とし、常温条件からこれに達するまでの温度上昇を運用上の健康影響閾値と同定し、 これを生じるばく露条件としてSAR(全ての組織について10 gの立方体で平均)を算出しています。具体的には、常温が高い (一般的に<38~38.5℃)組織をタイプ2組織(タイプ1組織として定義されているものを除く、頭部、眼部、腹部、背部、胸部及び骨盤の全ての組織)、 常温が低い(一般的に<33~36℃)組織をタイプ1組織(上腕、前腕、手、大腿、脚、足、耳介及び角膜、眼の前房及び虹彩、表皮、真皮、脂肪、筋肉及び骨組織における全ての組織) と定義し、それぞれに対して41℃に達するまでの温度上昇2℃及び5℃を生じる局所SARを20 W/kg及び40 W/kgとしています。これらのSARに対して、職業的ばく露についての低減係数2 (2分の1:全身ばく露と比べて、局所ばく露の健康影響閾値は体温調節にさほど依存しないことと、 関連する健康影響は医学的により深刻ではないことを考慮)、公衆ばく露について更に低減係数5(あわせて10分の1)を適用して、基本制限をそれぞれ表2のように導出しています。
6 GHzを超えるRFへの局所ばく露(平均化時間は6分間)については、6 GHz以下への局所ばく露と同じく、タイプ2組織の温度上昇2℃、タイプ1組織の温度上昇5℃を運用上の健康影響閾値と同定し、これを生じるばく露条件を透過電力密度(Str)で200 W/m2と算出しています(平均化面積は6~30 GHzで4 cm2、30~300 GHzで1 cm2)。このStrに対し、職業的ばく露についての低減係数2(2分の1)、公衆ばく露について更に低減係数5(あわせて10分の1)を適用して、基本制限をそれぞれ表2のように導出しています。
表2 電界、磁界及び電磁界ばく露(6分間以上)に対する基本制限
- 注記
- 1.全身SARは30分間で平均化。
- 2.局所SAR及び局所Strは6分間で平均化。
- 3.局所SARは10 gの立方体で平均化。
- 4.局所Strは4 cm2(>6 - 30 GHz)または1 cm2(>30 - 300 GHz)の正方形で平均化。
- 5.関連する場合、入射平面波電力密度に代えて、等価入射平面波電力密度を用いることができる。
- 6.“--” は、その項目に関する基本制限がないことを示す。
更に、今回の改定版では、平均化時間が6分間未満の短時間ばく露に対する防護の概念が新たに導入されました。タイプ2組織の温度上昇2℃、タイプ1組織の温度上昇5℃を運用上の健康影響閾値と同定し、これを生じるばく露条件を、0.4~6 GHzのRFでは500+354(t-1)0.5 J/kg(組織10 gあたり平均の比吸収量(SA))、6 GHzを超えるRFでは5+3.54(t-1)0.5 kJ/m2(透過エネルギー密度(Htr)、平均化面積は6~30 GHzで4 cm2、30~300 GHzで1 cm2)と導出しています(ここで、tはばく露時間(単位は秒)、 t <1の場合はt=1を用います)。これらの値に対し、職業ばく露についての低減係数2(2分の1)、公衆ばく露について低減係数10(10分の1)を適用して、基本制限をそれぞれ表3のように導出しています。
表3 電界、磁界及び電磁界ばく露(6分間未満)に対する基本制限
- 注記
- 1.局所SAは10 gの立方体で平均化。
- 2.局所Htrは4 cm2(>6 - 30 GHz)または1 cm2(>30 - 300 GHz)の正方形で平均化。
- 3.tは任意の時間間隔(単位は秒)、t<1の場合はt=1を用いる。
- 4.短時間ばく露の時間的特徴にかかわらず、限度値はt<360秒の全ての値を満たさなければならない。
- 5.“--” は、その項目に関する基本制限がないことを示す。
参考レベルは、表4(全身ばく露)、表5(局所ばく露、平均化時間6分間以上)及び表6(局所ばく露、平均化時間6分間未満)のように導出しています。
表4 100 kHzから300 GHzまでの時間変化する遠方界の電界、磁界及び電磁界への全身ばく露に対する参考レベル(無擾乱rms値)
- 注記
- 1.fは周波数(MHz)。
- 2.Sinc、E2及びH2は30分間、全身で平均化。E及びHの値はこれらの平均値から導出。
- 3.2GHzまでの周波数については、E、HまたはSincの値が参考レベルの範囲内であれば、遠方界ばく露条件への適合が証明される。いずれか1つが必要とされる。
- 4.“--” は、その項目に関する参考レベルがないことを示す。
# 400 MHzまでの周波数については、電界及び磁界レベルの両方が関連する遠方界の参考レベルの範囲内であれば、リアクティブ(reactive)及び放射(radiative)近傍界ばく露条件に対し、ばく露が参考レベルに適合する。
* 400MHzを超える周波数については、放射近傍界ばく露条件にも遠方界の参考レベルが適用できる。この周波数範囲では、リアクティブ近傍界ばく露条件に対する参考レベルは提示されていない。
- 注記
- リアクティブ近傍界とは、波源からの距離が概ね波長λ(単位はm)を円周率πの2倍で除した値(λ/2π、例:400 MHzでは120 mm)未満でのばく露条件を指します。放射近傍界とは、 波源からの距離が概ねλ/2πから2D2/λまで(Dは波源のアンテナの直径、単位はm)のばく露条件を指します。遠方界とは、波源からの距離が概ね> 2D2/λでのばく露条件を指します。
表5 100 kHzから300 GHzまでの時間変化する遠方界の電界、磁界及び電磁界への局所ばく露に対する参考レベル、時間間隔は≥ 6分間(無擾乱rms値)
- 注記
- 1.fは周波数(GHz)。
- 2.400 MHzまでの周波数については、6分間で平均化した空間ピーク値が、対応する全身平均遠方界参考レベル(表4から)未満であれば、ばく露が参考レベルに適合する。関連する場合、入射平面波電力密度に代えて、等価入射平面波電力密度を用いることができる。
- 3.400 MHzを超える周波数については、表6の参考レベルを6分間で平均化して(即ち、t=360秒として)用いる。
- 4.Sincは6分間、空間中の4 cm2(6 - 30 GHz)または1 cm2(>30 - 300 GHz)の身体表面を近似する正方形領域で平均化される。
- 5.“--” は、その項目に関する参考レベルがないことを示す。
#. 6 GHzまでの周波数については、放射近傍界及びリアクティブ近傍界ばく露条件に対しても、遠方界の参考レベルが適用できる。
*. 6 GHzを超える周波数については、放射近傍界ばく露条件に対しても、遠方界の参考レベルが適用できる。この周波数範囲では、リアクティブ近傍界ばく露条件に対する参考レベルは提示されていない。
表6 100 kHzから300 GHzまでの時間変化する遠方界の電界、磁界及び電磁界への局所ばく露に対する参考レベル、時間間隔は≤ 6分間(無擾乱rms値)
- 注記
- 1. fは周波数(GHz)、tは時間間隔(秒)。
- 2.100 kHz - 400 MHzの周波数については、短い時間間隔に対する追加的な制約は課されない(表5に示す6分間平均の参考レベルを用いる)。
関連する場合、入射平面波エネルギー密度に代えて、等価入射平面波エネルギー密度を用いることができる。 - 3.>400 MHz - 6 GHzの周波数についてはHincのピーク値を用いる。Htrは空間中の4 cm2(6 - 30 GHz)または1 cm2(>30 - 300 GHz)の身体表面を近似する正方形領域で平均化される。
- 4.数秒間で与えられる、パルスのグループ、または一連のパルスのサブグループからのばく露は、この表に示す限度値を超えてはならない。
# 400 MHzから6 GHzまでの周波数については、リアクティブ及び放射近傍界ばく露条件では、電界及び磁界に基づく等価入射平面波エネルギー密度の空間的ピーク値が両方とも、対応するHincの参考レベル未満であれば、ばく露が参考レベルに適合する。
* 6 GHzを超える周波数については、放射近傍界ばく露条件にも遠方界の参考レベルを適用できる。この周波数範囲では、リアクティブ近傍界ばく露条件に対する参考レベルは提示されていない。
100 kHzから110 MHzまでの周波数については、四肢に誘導される電流に対する参考レベルを規定しています。
表4~6の参考レベルは、ほとんどのばく露シナリオにおいて、対応する基本制限よりも保守的となるものの、 人体の共振周波数付近での接地(grounding)の影響で、基本制限を超えるばく露が増加する可能性があることから、 100 kHzから110 MHzまでの周波数については、四肢に誘導される電流に対する追加的な参考レベルを表7のように制定しています。
表7 100 kHzから110 MHzまでの周波数での四肢に誘導される電流に対する参考レベル
- 注記
- 1. IL2の値は6分間で平均化される。電流の値はこれらの平均値から導出される。
- 2.四肢の電流の参考レベルは他の周波数範囲には提示されていない。
また、この草案では、基本制限及び参考レベルに加えて、100 kHzから110 MHzまでの周波数についての接触電流に対する「ガイダンス」を提示しています。 更なる詳細については、草案原文をご参照下さい。