スウェーデン労働生活・社会研究評議会(FAS) 報告書「RFと健康のリスク」の公表
2012.08.30掲載
スウェーデン労働生活・社会研究評議会(FAS)は、2012年8月20日付けで、ホームページのNews欄に、「無線周波電磁界と疾病及び不健康のリスク‐過去10年間の研究」と題する報告書が提出されたことを公表しました。
FASは2003年に政府からこの分野の研究の調査を委託され、2012年初に完了しました。その間に全部で8編の年次報告書を既に発表していますが、今回の報告書はその集約です。それぞれの報告書は、カロリンスカ研究所環境医学研究部のAhlbom教授を座長とするプロジェクトグループにより作成されました。
この報告書の要約では、「この分野の研究の調査を委託された10年前の研究と知識の状況」「この10年間の研究手法と知識の増大」「現状の認識」の3点について簡潔に述べられています。FASは結論として、「この報告書に含まれた研究は、無線周波電磁界へのばく露に関連する重要な健康リスクはないことを示している」と述べています。
報告書の原文は下記のURLで確認できます。
http://www.fas.se/en/News/2012/
電磁界情報センターでは、その要約の概要を作成しましたので紹介します。不明な点は原文をご参照ください。
スウェーデン労働生活・社会研究評議会(FAS)
報告書:無線周波電磁界と疾病及び不健康のリスク‐過去10年間の研究
著者:Ahlbom A, Feychting M, Hamnerius Y, Hillert L
(内容)
この報告書の目的は、10年前に分かっていたこと、この10年間で知ったこと、そして我々は現在どのような位置に立っているのかを記すことです。
10年前
RF電磁界と人体との相互作用メカニズムはずいぶん以前に明確にされていましたが、人体での吸収エネルギーの分布、発生源ならびに人口集団のばく露レベルに関するデータは限られていました。RF電磁界でのばく露に関する誘発研究やRF電磁界と症状の発生についての知識は不足していました。またRF電磁界ばく露とがんに関する疫学研究は少数しか行われていませんでした。
この10年間で分かったこと
この10年間に、RF電磁界のさまざまな問題について幅広く研究が行われ、知識のデータベースは相当に大きくなりました。シミュレーションモデルによる吸収分布の解明、発生源ならびに人口集団のばく露レベルの測定調査などが貢献しました。
15件以上の誘発研究(単および二重ブラインド法)が実施されました。その結果、電磁界の発生を止めた時に比べ、発生させた時の方が、人々が症状または感覚を体験する頻度が高くなることを実証することはできませんでした。
疫学研究は、がん、特に脳腫瘍に関する相当な数の研究が公表されました。大多数の研究結果は影響を否定するものですので、総合的に解釈すれば、これらの疫学研究は携帯電話と脳腫瘍リスクの関連に裏付けを与えていないといえます。また、全国がん統計から見ることも重要です。仮に携帯電話使用と脳腫瘍リスクに関連があるならば、全国がん統計に増加傾向が目に見えて現れるはずです。しかし、脳腫瘍は増加していません。
現在、私たちはどのような状況にいるのでしょうか
RF電磁界と症状に関する相当数の誘発研究の結果、脳腫瘍と携帯電話に関する疫学研究の結果、世界各国を通しての全国がん統計の推移傾向など、私たちはかつてよりはるかに多くの知識を得ています。
携帯電話と健康に関する研究は、ある健康リスクの可能性についての生物学的仮説または疫学的仮説に基づくことなく始まりました。その代わりの動機は、急速に拡大する新規の技術に関する不特定の懸念でした。10年以上にわたる広範な研究でも、無線周波電磁界と人体の相互作用メカニズムに関して新しい知見は発見されていませんし、現行のばく露ガイドラインを下回るレベルでの健康リスクに関する証拠は見出されていません。絶対的な確かさが達成されることはあり得ませんが、その一方、これまで長い間揺るがない、熱作用という相互作用メカニズムが健康防護の基礎として十分ではないことを示唆するものは全くありません。