1. はじめに
妊娠中は、赤ちゃんのからだの器官が形成される時期であり、ご自身を含めた赤ちゃんの健康のことが気になるお母さんも多いのではないでしょうか。健やかで元気な赤ちゃんを産むために、食べ物や生活スタイルを見直すなど、「暮らしの中のリスクを少なくしたい」と考えるのは当然のことです。そんなリスクの一つとして取り上げられるのが「電磁波」。私たちの暮らしの中には、テレビ、冷蔵庫、スマートフォンをはじめとする家電製品や電子機器など、電磁波を発生するものがたくさんあり、もはや電磁波が全くない環境で暮らすことは難しいでしょう。
そんななか、インターネットでは電磁波を危険視するページもみかけられ、「電磁波は自分や赤ちゃんに良くないのでは?」と心配される方もいます。一方、世界保健機関(WHO)が1996年から電磁波の健康への影響について検証し、安全性を確認していることはあまり知られていません。きちんと科学的な根拠の示された正しい情報を知ることは、ばく然とした不安を解消することにつながります。
このページでは、妊娠中のお母さんに電磁波の健康影響について正しく理解してもらうことを目的に、電磁界情報センターがWHOの研究成果をもとに公表されている見解と公衆衛生学、産科学、小児科学、助産学の専門家の知見をまじえて、お母さんや赤ちゃんの健康と電磁波との関連について解説します。
2. 電磁波を浴びると赤ちゃんの健康に影響があるの?
普段の生活環境で浴びる電磁波の強さは国際的なガイドライン値を大きく下回っています
電力設備や家電製品から発生する低周波の電磁波は、健康影響が生じる最小値※1に対して十分な安全率を見込んだ国際的なガイドラインの推奨値をさらに下回るレベルであり、安全なものと考えられます。スマートフォンから発生する高周波の電磁波についても同様に低いレベルと考えられています。
【µT(マイクロテスラ)は、磁界の強さを示す単位です。】
※1 普段の生活で浴びる最も強い電磁波の数百倍にあたるような極めて強い低周波の電磁波を浴びると神経が刺激されます。同様に極めて強い高周波では体温が上昇します。
普段の生活ではおなかの赤ちゃんに影響するとは考えられていません
長期的に電磁波を浴びると赤ちゃんの発育に悪影響があったり、流産や早産につながったりするのではないかと不安を感じる人もいるでしょう。インターネットなどで、そうした情報を見かけることもあるかもしれません。
しかし、家電製品やスマートフォンからの電磁波はからだに蓄積されず、遺伝子を傷つける作用もないので、電磁波を浴びている時間や回数には関係なく健康への影響はありません。
3. 身のまわりにある電磁波の健康影響は?
私たちの身のまわりには、様々な周波数の電磁波が存在しています。低周波の電磁波は電力設備や家電製品などから、中間周波の電磁波は IH調理器や電⼦タグ、電⼦商品監視装置などから、⾼周波の電磁波はスマートフォン(5Gを含む)、WiFiなどの無線機器や携帯電話基地局、TV・ラジオ放送局などから発⽣しています。
以下、健康が懸念されている3つの種類の電磁波について説明します
低周波の電磁波
周波数が300ヘルツ以下を低周波とよんでいます。電力設備やご家庭のコンセントで使用する家電製品などは、周波数が50ヘルツ・60ヘルツで低周波に含まれます。
家電製品の使用を控えたり、送電線に近づかない方がいいの?
家の近くに電力設備があったり、仕事でパソコンを使ったり、朝晩ヘアドライヤーを使用したり、低周波の電磁波を浴びる機会が多いと赤ちゃんやお母さんへの影響が気になるかもしれません。しかし、これらから発生する電磁波によって健康に影響があるとは考えられていません。
中間周波の電磁波
周波数が300ヘルツから1千万ヘルツを中間周波とよんでいます。IH調理器をはじめ、鉄道の自動改札機などで使われている非接触ICカードシステムや盗難防止ゲートなどはこの中間周波の電磁波を発生しています。
IH調理器からの電磁波は大丈夫?
健康への影響を考えるときに重要なのは電磁波の強さです。IH 調理器からの電磁波は十分な安全率を見込んだ国際的なガイドライン値よりも更に低く、健康に影響があるとは考えられていません。
高周波の電磁波
周波数が1千万ヘルツ以上を高周波の電磁波(電波)とよんでいます。スマートフォンやWi-Fi、電子レンジなどは高周波の電磁波を発生しています。
スマートフォンやWiFiを長時間使用しても大丈夫?
スマートフォンを枕元に置いて寝ても大丈夫?
電子レンジを頻繁に使っても大丈夫?
すでにスマートフォンは私たちの生活の一部となっていますが、インターネット上などで、スマートフォンやWi-Fi を使うと「脳しゅようになる」「赤ちゃんの発育に影響がある」「電子レンジに近づくと危ない」など、誤った情報が流れているのを見ると「どうしたらいいの?」と思うかもしれません。実際には、スマートフォン、Wi-Fi が発する電磁波は非常に低いレベルで、健康への影響があるとは考えられていません。スマートフォンなどの高周波が潜在的な健康リスクをもたらすかどうか30年以上にわたって数多くの研究が行われてきましたが、今日まで健康への悪影響は否定されています。
また、電子レンジは加熱作用のあるマイクロ波と呼ばれる電磁波を発生させて調理を行いますが、家庭で実際に使用している電子レンジからの電磁波が健康に影響を及ぼすことはなく、電子レンジで調理した食材に電磁波が残っていたり、食材成分が健康に影響を及ぼすこともないと考えられています。
4. 妊娠中のお母さんが心配されていること
妊娠中のお母さんへ電磁波に対する意識調査を実施しました
電磁界情報センターが妊娠中のお母さんを対象に行った意識調査では、思い浮かぶ電磁波の健康影響は赤ちゃんの発育や奇形が最も心配なようです(図1)。さらに、約半数のお母さんがスマートフォン、電子レンジに不安を感じています(図2)
赤ちゃんへの影響はあるの?
妊娠中のお母さんは、赤ちゃんの発育や奇形への不安を抱いている方が多いようですが、そのような健康影響が生じるとは考えられていません。
小児白血病になりやすい?
小児白血病の発症と電力設備などからの電磁波との関連を調査した疫学研究では、平均0.4μT以上の低周波の電磁波を浴びると小児白血病が増えることとの関連性が示されていますが、この結果には調査対象者の偏りによる影響があるかもしれないといわれています。また、これを裏付ける動物や細胞研究による証拠は見つかっておらず、関連性のメカニズムも不明との結果が出ています。
そのため、WHOは総合的評価として、電磁波との関連性では「小児白血病に関する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではない」と結論づけています。
スマートフォンを使うと「脳しゅよう」になりやすい?
長年の研究でも、スマートフォンの使用が脳しゅようを引き起こすとは考えられていません。
電磁過敏症は本当にあるの?
非常に低いレベルの電磁波でも、これを浴びると頭痛・めまい・吐き気・皮膚がヒリヒリするなどの症状を訴える方はいますが、電磁波が原因ではないと考えられています。
WHOは、その症状の発生が電磁波を浴びたことと関連する科学的根拠がないことから、「生活環境」「ストレス」「電磁波の健康影響を恐れる気持ち」が原因ではないかと説明しています。
5. それでも心配なお母さんへ
電磁波の強さを知る
健康への影響を考えるうえで重要なのは電磁波の強さです。身のまわりの電磁波の強さは国際的なガイドライン値よりもかなり低いことがわかっていますが、それでも家の近くに送電線などの電力設備があり、不安を感じる方は、お近くの電力会社に依頼すれば測定してもらうことができます。生活する場所の電磁波の強さを知ると安心できるでしょう。また、電磁界情報センターの低周波磁界測定器の無料貸出※2を利用することもできます。
発生源から離れる、スイッチを切る
電磁波は発生源から距離が離れると、急激に弱くなる性質があります。WHOは、電磁波の低減対策は「不要」としています。それでも不安なときは以下のような工夫をすることにより安心できるかもしれません。
- 室内の電磁波が弱い場所で睡眠する
- 電気毛布を使用するときは就寝前までに寝具を温めて、就寝時にはスイッチを切る
- ハンズフリーキットを使ってスマートフォンを耳元から離す
電子機器を適切に使用する
スマートフォンやパソコンなどは私たちの生活になくてはならないものとなっています。こうした機器類が発生する電磁波は健康への影響を及ぼさないレベルに制限されています。ただ、長時間の使用の影響は、より広く考える必要があります。たとえば、赤ちゃんとママ・パパの触れ合う時間が減ったり、眼精疲労や睡眠障害につながったり、子どもの心身の発育や家族の健康に多様な影響を与えます。以下の点などに注意して適切に使用しましょう。
- 幼い子どものスマートフォンの使用は慎重に判断する
- スマートフォンなどの寝室での使用や日中の長時間の使用を避ける
- スマートフォン画面の明るさを調節する
6. もっと知りたいときは?
他に以下のリンクからも電磁波に関する情報が入手できます。